2018年より新専門医制度が始まり、運用については様々な意見があるが、医師目線からその問題点を極めて端的に表すとすれば、専門医の更新や取得の難易度、煩雑さが増したということが一番のポイントだ。
特に、フリーの医師目線で最も問題になるのは、専門医更新のための就労条件である。
具体的には、週に〇日以上、一日〇時間以上、などの就労用件が厳格化したことである。
特に、麻酔科医について言えば、
同一施設で週3日以上勤務という条件が加えられた。これは、明らかにフリーの医師を撲滅する為の戦略と考えられる。
この点において、元フリー医師としてのリアルな現場目線から、新専門医制度のメリットとデメリットについて考えてみたいと思う。
新専門医制度のデメリット
弱医はズバリ、新専門医制度には反対だ。ポジショントークと見られるかもしれないが、理由としては、以下のようなデメリットがあるからだ。
・気軽に他分野、他領域を学びに行けなくなり、医師として人間としての幅が広がらない
・取る苦労を考えると失うことを躊躇し、その結果、やりたいことがあっても始められない
・資格にしがみつく人生
・医師として立ち止まることを許されない
医師は様々な価値観や多角的な視点を必要とする職業の一つである。医師としてというよりも人としての生涯学習、人としての幅を磨く作業に時間を費やすことが、後々必ず効いてくる。
医者は、大学を卒業した途端に先生と呼ばれ、世間知らずであり、もっと世の中を学んだ方がいい。新専門医制度は、そういう時間を与えない、寄り道を許さない、立ち止まることを許さない、なんとも余裕のない厳しさを感じる。
いくつかの専門医を同時に維持することが極めて難しくなった。自分の専門性を一つに絞ることを要求されているようなものである。
新専門医制度のメリット
一方、メリットについても考えてみたい。いつの時でも他者の考えを受け入れられる弱医でありたい。
・専門的な技術や知識の担保
・学会の権威の維持
・学会認定施設の医師確保
・フリーへ転身する医師への抑止力
確かに、専門性の担保にはその領域の仕事に従事する事は重要だ。しかし、麻酔科専門医のように勤務場所を同一施設に限定するのは流石にやりすぎではないだろうか。
例えば、いくつかの病院で心臓麻酔などの専門性の高い手術をこなしているフリーの医師は専門医を剥奪され、同一施設で簡単な麻酔をかけているような医師は専門医を更新できるというのは、何ともおかしな話ではないかと感じる。
つまり、医者としての有能さよりも、権威に尻尾を振れる人間にはちゃんと資格を与えてあげましょうよという制度以外の何物でもない。
新専門医制度ではドクターXはありえないのだ。(あんな世界は元々ありえないのだが。。)
実際に、専門医維持更新の要件が厳しくなったことで、これまでフリーだった医師が勤務医へ戻るという流れが起こっている。
この流れ自体、学会としてはまさに思惑通りなのであるが、これまでフリー医師の働きで何とか回っていたような小さな病院からすれば、その戦力のダウンは必至であり大打撃だ。今後も医師の確保も難しくなる状況が発生しつつある。
これから専門医を目指す人へ
莫大な労力と費用をかけ専門医試験を受ける前に、自分自身の人生プランをよく考える必要がある。
自分はその領域の専門医が本当に必要なのか?
果たして維持更新が出来るのか?
不思議なことに一度手にしてしまうと簡単に捨てられないのが人間の悲しい性である。
自分が二流であればあるほど、専門医という肩書きを失うことに恐れる自分に気づくだろう。
自分の手にした資格によって人生を制限される、チャレンジに躊躇してしまう。
未来ある若人諸君には、そんな悲しい想いをして欲しくないと切に願う。
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